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接着(ポリエチレン・ポリエチレン)

接着

異種材料接合の切り札

接着剤を使えば、異種材料の接合も出来ます・・が、うまく接着できない時どうするか?
先ずは基本のキから

キーワード1

接着は、接着剤と被着体の相互作用です。
(問題)1:ミスユニバース 2:料理の鉄人 3:強力接着剤 4:ナポレオン
これらの共通項はなんでしょう?

(答)すぐわかりますね。“組み合わせる相手次第で、評価が変わる”ということです。

1:は露骨にいえば、審査員の女の好みを評決した結果ですから、審査メンバーが替われば結果が変ります。

2:も同じです。鉄人の懐石料理と、銚子のゴミ捨て場で拾ってきた鰯の頭と、どちらが勝つか・・・たとえばもし審査員席に”金蝿さん””銀蝿さん””家蝿さん””センチコガネさん””フンコロガシさん””ミミズさん””大腸菌さん”が座っていたら・・・鉄人のボロ負けは、明白です。

4:はコルシカに流された男ではなく、フランスの誇る高級蒸留酒の方です。
せっかく財布をはたいて買って帰ったのに、”ドボドボ”とコップに注いで一気飲みし、『イケン!こりゃ飲めたシロモンじゃない。』と、一升瓶の焼酎で急いで口直ししたのは、死んだ私の親父です。

3:強力接着剤・・・

もうお分かりですね。何を言うつもりなのか。
美しいとか、うまいとか、高級とか、強力、などの形容詞は、人や物の属性を表現しているのではなく、組み合わせた相手との相互作用を表現しているのです。

接着剤が強力なのではなく、その接着剤と特定の被着体表面の“相互作用が”強力なのです。
それが、キーワード1の内容のすべてです。

では、接着において、その強い相互作用を得るには、具体的にどうすればよいか。

訂正

ナポレオンの流刑地はセントへレナ島で、コルシカは出身地でした、でも語呂が良いので本文はそのままにしときます。
作者の頭の程度も適度に正しく推察されて、それはソレでイイんじゃないかと思われますので・・

キーワード2

接着力を上げるには、接着剤に工夫を凝らすか、被着体表面に工夫を凝らすか、二つに一つ(あるいは両方)
(理由は明白ですね。・・・相互作用なんですから)
接着剤に工夫を凝らすといっても、メーカーはともかく、一般のユーザーができるのは”手を尽くして、適したものを探すこと、くらいです。

被着体表面に工夫を凝らすことは、表面処理といいますが、この言葉は、被着体表面から接着を阻害する介在物を取り除くこと(クリーニング)と、被着体表面を、接着剤との相互作用が強くなるように、改質すること(表面改質、表面修飾)、の二つの内容を一緒くたにしたものです。

建築塗装をやっている人たちには、前者は錆落とし、汚れ落としの意味で使われる“ケレン”(cleaningの和風発音)という言葉でおなじみです。後者はあまりなじみがないかもしれませんので、あとで実例をご紹介します。

キーワード2の内容を、冒頭のミスコンテストに当てはめると、(候補者を被着体表面、審査員を接着剤として)服を脱ぐのが“ケレン”(ミスコンのケレンは中途半端で話になりませんが・・・)

付けまつ毛、アイシャドウ、口紅、マニキュア等、審査員の好みそうな、あの手この手の大掛かりなメーキャップ(変装?)をするのが表面改質(又は、表面修飾
審査員にメスカリンを注射して、特定の候補に投票するように暗示を掛けるのが、(もしやったとすればの話ですよ。)接着剤の改質
同じく、審査員全員を、特定の候補のファンクラブで固めてしまうのが、(もしやったとすればのはなしです。)適正接着剤の選定ということになります。

もし・・ミスコンでアントニオ猪木を優勝させる、といった、破格の大計画をたてたとしたら、サポートスタッフは、そのくらい“なりふり構わぬ”ことをやる必要があります。 
接着し難い物を接着しようとする時も同じであり、あらゆる可能性を検討しないといけません。
その可能性を探す場所ここですよ!といっているのがキーワード2です。
で、そうやって首尾よく接着できたとしても、それで問題解決というわけではありません。

キーワード3

着けばいいってもんじゃない。そこに到る過程と、それを維持することが大切なんだ。
さて、苦労して世界一の美女にでっちあげたアントニオ嬢には、“明るい所に出るな”“しゃべるな”という条件を守らせないと、たちまち馬脚を現してブーイングにさらされる懸念があります。

また、アントニオ嬢の選出に使ったメスカリンに関しては、麻薬取締法違反という理由で、司直の手が伸びてくるでありましょう。現行犯逮捕されるかもしれません。
接着でいえばこれは、作業条件に対する適合性という概念です。接着が完了するまでには、接着作業と言う過程を経なければなりませんが、そこにも、満たされなければならない、いろいろな適合条件が、存在します。

例えば、一日何万個も製造するラインに使う接着剤は、早く固まるという性質をもっていることが絶対条件です。

火気厳禁の場所で、火炎処理やプラズマ放電処理を行うことはタブーですし、作業中、有機ガスを撒き散らすタイプの接着剤はクリーンルームからはつまみ出される運命です。
つまり、着けば、どんなやり方でも許される、というものではないのです。

また、どんな接着剤であれ、それで接着したものには、その接着状態を保てる条件、というものが有りますが、求められる使用条件(例えば塩酸の中、苛性ソーダの中、水の中、冷熱繰り返し、振動、極低温、など、)に適合して、接着状態を維持出来なければなりません。
取敢えず着けばいいってもんじゃありません。

つまり、実用性のある接着システムとは、必要な接着力があり、要求にあった実用的な作業方法で接着でき、想定された使用環境で機能を保てるもののことです。
三つ揃わないと実用にはなりませんよ。”というのがキーワード3の内容です。

キーワード番外

接着の信頼性は、接合部のデザインにも左右される。

接着力とは何か

必要な接着力があるかどうかの判断は、実際に使ってみて、問題が発生するかどうか、という事で、一義的に決まります。
但し、これでは予測も計画も出来ませんので、接着したものを、計測のできる一定の方法で破壊してみて、その破壊に要した力を、接着力とみなし、実用の目安にする、習わしです。
一般的には、その破壊方法は、下図の三種類です。(ピーリングの単位に注目してください。)
ピーリング(kg/cm or in)(90°or 180°)
テンシル(kgf/cm2)
シア(kgf/cm2)
破壊の状態は、数値(接着力)と並ぶ重要な検査項目です。
左から
A:界面破壊 B:接着剤・材料破壊 C:被着体・材料破壊

もし接着力の数値を上げる必要が生じた場合、
Aのケースでは、接着剤の種類や被着体の表面処理を、変える必要があります。
Bのケースでは、接着剤自身の強度を、大きくしなければなりません。
Cのケースでは、被着体の表面強度を、大きくしなければりません。

このように、どんな様相の破断が生じたかと言う観察は、改善方法を考えるとき、不可欠の情報です。従って接着力の表記の仕方としては、20kgf/cm2(シア)(被着体界面破壊)の様に
数値、破断方法、破断状態を三点セットにするのが、正しいやりかたです。

破断方法の違いによる数値の変化

例えば、先述の“ピーリング”“テンシル”“シア”の相対数値ですが、エポキシ接着剤などでやると、1:10:100(程度)の差が出ます。
つまり、シアで100kg/cm2の数値が出ても、テンシルなら10kg/cm2以下、ピーリングなら更にその十分の一以下ということです。
試験方法によって数値は大差が出ます。

実例として、普通に使われているPVCパイプ用の溶剤型接着剤を見てみますと、この接着剤のテンシルでの接着力は、たかだか数kg/cm2(ピーリングでは測定不能な程の弱さ)ですが、パイプの接着では、シアの破断のみを考えればよいので、この程度の接着力でも、実用上十分と見なされます。

逆にいえば、接着剤を使うなら、力がシアでかかるようにするのがベストの設計です。
次に良いのがテンシルであり、ピーリングでかかるのは最悪という事になります。

以上が、接着剤で何かをくっつけるシステムを作ろうと思ったとき、留意しておいた方が良い、基礎事項です。

次に、ポリエチレン・ポリプロピレンの接着の、具体的なやり方を説明します。
『なんだ、結局おまえんとこの接着剤の宣伝かぁ。』と言われるのはシャクなので、うちの、すばらしい、エクセレントな、高性能接着剤なんか使わずに済む方法から、スタートします。

[キーワード2]を思い出してください。
“表面処理?”それです、それです。

ポリオレフィンの表面改質法

(原則どんなプラスチックにも使えます。ただし、フッ素樹脂だけはちょっとキビシイ)
火炎処理・化学処理・コロナ放電処理・プラズマ放電処理・UV処理・オゾン処理
(番外)屋外放置 目荒し?・・・やるだけ無駄です。

火炎処理

まず最も原始的な処理法から・・・

ポリエチレン表面に、バーナーの炎をあてて、表面にオコゲを作る。・・・以上終り。
オコゲといっても、真っ黒に炭化させるのはやり過ぎです。遠くから、恐々ウジウジと長くあぶるのも、ダメです。それでは、本体が融けてしまいます。

【原理】
炎をあてると、ポリエチレン分子の一部に酸素がくっつく“部分酸化”ということが起こり、表面にーCOOHやーOHができるので、接着剤が 着きやすくなるんだそうです。でも多分、こんなダイナミックなことをすれば、他にもいろんなことが起こるはずなので、もっと包括的に“部分オコゲ化”と覚えておきましょう。
どんなプラスチックでもそうですが、可塑剤を大量に含むものは、加熱によってそれが表面にブリードして、接着を阻害することがあります。

道具

ハンドトーチは、DIYや金物店で数千円で売っています。(高級品は一万円近くする)
炎を細く絞って使います。
ただ、練習あるのみ!

化学処理

火炎処理と同じようなことを、薬品を使ってやろうということ

我々は やったことがないので、評論しません。よそに書いてあったことでお茶を濁しておきます。
重クロム酸カリ75グラム、水120グラム、濃硫酸1500グラムを混ぜたものに、PEの場合室温で一時間以上(70度から80度なら10分間)浸漬し、水洗乾燥する。(日本接着協会編 接着ハンドブック)
(無論これは化学処理のほんの一例です。本に書いてあるようなことは、大体時代遅れとしたもんですが。・・スイマセン)

材料と道具

こんなアブナイものは、専門の薬品店でないと買えません。
  • 硫酸:700円前後(500グラムビン)
  • 重クロム酸カリ:ちょっと値段は忘れました。(500グラムビン)

買うときは、身分を証明するものと、ハンコがいります。
容器は、ガラスか陶磁器かステンレス製を使う。アルミは不可
注意!! 間違っても手をつっこんだりしないように。ヤケド程度のことではすみません。

コロナ放電処理

電極を向き合わせて、電圧を高くしていくと、電極間の空気が帯電して、弱い放電が始まります。このとき、酸素は(酸素に限らず何でも)通常より高いエネルギー状態になっており、化学反応でオゾンも発生します。
このコロナ放電中の電極間にポリエチレンを通過させると、この高エネルギーの酸素やオゾンによって、表面が、部分オコゲ状態にされてしまいます。
これが、コロナ放電処理です。何せ、電気エネルギーを使って酸素やオゾンをけしかけるのですから、倉庫に放置して、ボケーッと待っているのと比べ、圧倒的に短時間で、部分酸化が生じます。この装置はシート状のものを大量に高速で処理するのに、適しています。(印刷など)

片方の電極である高価なローラーが、オゾン等でダメージを受けますので、表面に、ゴムを被せてあります。しかし、このゴムもいずれやられるので、高級品は、ゴムの代わりに、セラミックを被せてあります。(セラミック溶射のあと、微細な空隙に樹脂を真空注入し、ダイヤモンド工具で研削仕上げするので、値段がドンと跳ね上がります。)そんなこんなで、設備の値段は、少なくても100万円(大型品はとてもとても、そんなレベルの話ではないと覚悟してください。)

  • 消耗品・・・電気だけ
  • 製造メーカーや輸入商社・・・たくさんあります。例えば春日電機(株)大阪
(キーワードを打ち込めばインターネットでさがせます。)

(写真:春日電機(株)カタログより)

プラズマ放電処理

処理原理はコロナ放電といっしょです。高周波高電圧で“ゴー!バチバチ!”とさらに派手に放電させて、プラズマ(プラスとマイナスに帯電してゴチャマゼになって飛び回るオゾンや酸素や窒素の集団)を、大量に発生させ、小さな送風機の風でそれを吹き飛ばして、ポリエチレンの表面に吹きつける仕組みになっています。
複雑な形状のものの処理や、小型品の処理に適します。

  • お値段・・・100万円程度から上
  • 製造メーカー
    コロナ放電のメーカーはたいていこれも扱っています。

注意!!
取扱い説明書に示された安全処置はきちんと守りましょう。
面白半分でプラズマの中に手を突っ込んだりしないように(ドスンという感じの激しい電気ショックがきます。)

春日電機(株)製

UV処理

UVは、Urtra Vaiolet Rays 、つまり紫外線のことです。

太陽からは、ボーダイな量のエネルギーが、いろいろな波長の電磁波の形で放射されており、我々人間には、その中の400ナノメートルから800ナノメートルの波長のものだけが、選択的に、光として見えるので“可視光線”という名前までつけています。
そして人間は、“特定の波長に特定の色を感じてしまう”というアブナイ性質を有しており400ナノメートルを“紫”、800ナノメートルを“赤”と感じます。(なぜそう感じるか?理由は神様に聞いてください)
800ナノメートルより、もっと長い波長のものを、近赤外線、もっともっと長いのを、遠赤外線と表現します。 
同様に400ナノメートルより少し短いのが、近紫外線ずっと短いのが遠紫外線です。

電磁波は波長が短くなるほど、エネルギー強度が大きくなり、また、よりサイズの小さなものに、吸収され易くなります。波長の長い赤外線が、タンパク質や樹脂等の高分子に吸収され、それを振動させて、温度を上げる働きをするのに対し、UVは、原子レベルの大きさのものに吸収され、結合を切断するくらいのエネルギー強度を、持っています。

太陽からの紫外線は、365ナノメートルほどの可視光に近いものから、250ナノメートル近辺、185ナノメートル近辺、その他いろいろな波長を含んでおり、いずれも生物のDNA(に含まれる原子)にアタックするアブナイ電磁波です。
眼には見えなくても、身体は、365ナノメートルの電磁波を、アブナイと感知して、メラニン色素を合成し、皮膚に沈着させてバリヤーを作ります。250や165ナノメートルという、もっとアブナイのはどうなっているのか?これは、例のオゾン層や酸素が、地球規模のバリヤーとして働いて、我々を守ってくれています。
オゾン層は、大気中の酸素がUVを吸収して反応してオゾンに化け、それが上空にたまったものです。(つまり酸素原子はUVを吸収しやすいという事です。)

UV処理というのは、低圧水銀ランプ等の光源を使って、250とか185ナノメートルといった、エネルギーの強いUVを、ポリエチレンの表面(及び周辺の空気)に照射することです。
(この波長でなければならない、ということではありませんし、またランプがこの波長だけを発生する、というわけでもありません。単に、ピーク波長を代表して、単純化して書いているだけです。)

そうすると、地球規模で生じているのと同じように、酸素がUVを吸収し、オゾンや発生機の酸素等という、極めて反応性の高い“活性状態酸素”とでも言うべきものに変わります。

これが、ポリエチレン表面と反応して例の部分オコゲ状態を作るわけです。(UVーPEの直接作用も、何か起こっているかもしれません。)

【機器の値段】
小さなUVハンドランプは15万円程度のものがあります
低圧ランプの、ある程度本格的なものは、100万円以上、上はいくらでもありの世界です。
メーカは、セン特殊光源(株)やアイグラフィックス(株)等あります。最近は、いろんなメーカーから新しいタイプのランプも出ているようです。

注意!!
UVが外に漏れないようにしましょう。光をじっと見たりするのは、したくても、しちゃダメです

オゾン処理

オゾンを、UV等を使って別の場所で発生させておき、配管を使って、処理部へ供給して、PEと接触させるものです。

屋外放置

ノンビリいきましょう。ノンビリ

処理法といえるかどうか分かりませんが、長期的に屋外に放置すると、自然のUVや酸素等で酸化され、結果的に、表面処理されたようになります。
PPやPEは、この自然劣化を防ぐ為、一般に、酸化防止剤を添加してありますが、その働きはパーフェクトではありませんので、こんなことがおこりますし、表面処理もできるわけです。

まとめ

いかがでしょうか。表面処理のイメージが、できましたでしょうか?
(本当は、まだあります。でもここから先は企業秘密の世界です。ごめんなさい。)
『オコゲの話だけで終りか。全部同じじゃないか!で、どれが一番良いんだ?どれで、どのようにすれば どのくらいの接着力がでるのか 数字で示せんのか?』
たぶん、そうお思いでしょう。
その疑問には、誰も答えられません。

ここから先は、個々に試すしかないんです。
そのとき頭に入れておくべきことは、プラスチックは、同一の名前がついていても、全部、微妙に性質が異なっており、同じやり方をしても、相手が代われば、結果が変わることがあり得る、ということ。
表面処理がうまくできたら、塗料や接着剤が必ずうまく着く、という単純なものではなく、表面処理して、なおかつ、その処理表面に適合した接着剤や塗料を用いて、初めて、強い接着力が生まれるんだ、ということです。

(この点は表面処理機メーカーの方達も、一般に認識不足であり、ただひたすら、水との接触角が何度に下がった(ぬれ試験法)という話ばかりに終始しています。そこから先は守備範囲外、という事なのかもしれませんが。)

キーワード1を思い出してください。表面処理をしてもこの言葉は不変です。
つまり、表面改質というのは、あらゆる接着剤が着くようにすることではなく、特定の接着剤に適合するように、変えることです。
(一般には、極性接着剤に、なじみ易くすることです。)
実際には、特定の接着剤に合わせて表面処理するなどという離れ業は誰も出来ませんから、
「その表面処理に合う接着剤を探す」というのが、唯一現実的なアプローチになるわけです。
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