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ポリエチレン・ポリプロピレンの接着と融着(溶接)

ポリエチレン、ポリプロピレンの接着と融着(溶接)

この資料は、ポリエチレン・ポリプロピレン・熱可塑オレフィンゴムの接合法を、包括的かつ、できるだけコンパクトにまとめて提供しよう、という意図で、作ったものです。

私的な経験を基に、徹頭徹尾 我々の視点でまとめましたので、独断的解釈や専門書と異なる解釈、そしておそらくは誤りもあるかと思いますが、評価や内容の取捨選択は、皆様の責任で行って下さい。私企業ですから、『知っていることは全部教えます。』などという能天気なことはできませんが、説明に必要な分だけ、公開させていただきました。
融着・・・(うまくできれば)同種材料接合の、最も理想的な手段
キーワード:ポリエチレンの表面は、ポリエチレンではない!

実験1

ポリエチレンの表面をホットガンで強熱して軟化させ、軟化した物同士を押し付けても融着しない。

考察1

何故だか分からないが、とりあえずほかの物でやってみよう

実験2

ポリ塩化ビニール、ポリプロピレンは同様にすると、容易に融着する。

考察2

何故、この違いが生じるのか?
エクストルーダーの中で混練されたPEは、完全に一体化するのに、なぜ空気中ではそうならないのか
表面に何か出来ているのか。
とりあえず見てみよう。

実験3

顕微鏡下にPEを固定し、ホットガンで加熱しながら、溶融の仕方を観察。融けているのか、いないのか判別不能・・・しつこく加熱し、目を凝らして見続けていると、突然、融けたPEと思われるものが、マグマのように表面に噴出してきた。

考察3

PE表面には、何か薄い皮がついている。その皮は、ホットガンで溶けないように見える。(多分溶けていない)少なくとも、ポリエチレンそのものより、融点は高いと思われる。実験3は、ホットガンによって、まず、ポリエチレン内部が融け、それが表皮を突き破って出てきたものと、思われる。そして、この皮同士は融合しない為、実験1の結果になった・・と、推定される。
さらに、PEとこの表皮も融合しないはずだ。(もし融合するなら融着を阻害しない。)

実験4

こで、PE表面をカッターで削り取って、ただちに実験1と同じように融着させてみた。
・・・やっぱりついた!あれっ ついてないものもある。なぜだ?

考察5

ホットガンの加熱によって、瞬時に表皮が出来るのではないか。モタモタやっていると失敗するのかもしれない。

実験5

PE表面をカッターで削り、表面をホットガンで加熱し、少し時間を置いてから、再加熱して融着
何度やっても全くつかない!

考察6

やっぱり、加熱ですぐに膜が出来上がっている。
では常温ではどうなのか?

実験6

PE表面をカッターで削り、室内に放置。一日後、二日後、・・・と順に融着試験。五日目頃から、つかなくなってくる。

考察7

常温、空気中では、五日程度で、皮膜が出来るようである。水中や冷蔵庫の中ではどうか。その他の条件では・・以下省略
【ソテック流裏ワザパート1 切込み溶接法】

ポリエチレン表面に、カッターで浅くゴバン目状に切込みを入れて、融着実験を行った。
・・・すべて融着!
(PAT申請していないので、御自由に真似してください。アイデア料よこせなんてヤボな事は言いません)

考察8

表皮の切込みから、PEのマグマが容易に表面に沁み出し、互いに融着したと思われる。また、ホットガンで加熱している間、PEのマグマは表皮によって空気と遮断されているので、酸化(?)をまぬがれていると、推察される。
(だれがやってもホットガン一本で結構うまく融着できます。オススメ)

結論

よって、キーワード1が、導かれる。ポリエチレンの表面はポリエチレンではない!

それは、PEより溶けにくく、仲間同士でも融合せず、PEとも混ざり合わず、室温で五日程度、加熱すると直ちに発生する目に見えない薄い皮膜。
溶接にせよ、接着にせよ、その存在を前提しないと、トラブルを招く。

この件に関する発展的考察

(推論過程を全て記事にすると、やたらと長くなるので、”我々はこう結論付けている”という要約を記します。独断と偏見かもしれないことを、重ねてご注意ください。一応(?)をつけておきます。)

PEの表皮の形成には、PEの結晶化の過程ではじき出された、非晶質の部分が関与している(?)ものと、文字通りPEが部分酸化されたものと、二種類ある(?)。
前者としての低分子量PEが、経時的に表面にブリードして、(?)融着を妨げている可能性がある(?)。
(この理論でいくと、メタロセンポリエチレンは、分子量分布が極めてシャープであるため、融着性が良いと予想される。そして、事実、ただ一種類だけであるが、LDメタロセンポリエチレンを入手してテストした結果は、その通りであった。無論これで”証明終わり”とはならないけれど・・・)
また、何年も使い古して変色しているPE製まな板を、エポキシ樹脂で接着したところ、80kgf/cm2という数値を得た。これは酸化皮膜(?)と、永年の使用で水溶性や油溶性の低分子量成分が表面から除去されたことによる、相乗効果と思われる(?)。
(当然こんな表面に融着はできない。確認済み)

PPやPVCがPEと比べて融着しやすいのは、非結晶性であることが、大きな理由の一つである。(?)
PEのように、極性が低く、結晶性の高い材質は、排他性が強く、よそ者とはほとんど混ざり合わないが、その点PPやPVCは、溶接界面に多少のキョウザツ物があっても、それを取り込んで混ざり合い易いはずである。
それが溶接性を高めていると思われる。
(そういえば、ハードセグメントにPEを使った熱可塑エラストマーが(あるのかもしれないが)見当たらないのは、相溶性のよい、適当なソフトセグメントが、無いからなのかも知れない(?)。いいかげんなことを言うなと、専門家の方に叱られるかも知れないけど・・・)
話のついでに、熱可塑エラストマー溶接の裏ワザを公開しましょう。
【ソテック流裏技パート2 TPO溶接法】

三井化学(株)のミラストマーというTPOは、ハードセグメントにPP、ソフトセグメントにEPDMを使っていると聞きましたが、これも容易には融着出来ません。
(ある自動車部品メーカーの技術部長さんが、なげいていましたので、多分よそでも同じと思います。)
これは、PPの溶接棒を使えば、容易に溶接できます。
これも自由にやってみてください。

原理

加熱によって大量にブリードして融着を妨げていたソフトセグメントを、PP溶棒が吸収して、(?)ハードセグメントのPPと一体化するためです。(?)
溶接棒は可及的に母材と同質のものを使うべし”という常識からすれば、邪道のアプローチですが、他のTPEにも応用できるかもしれません。興味ある方はやってみてください。
(TPO製遮水シートの修理法がなくて頭を抱えていたH化学さん。このやり方でできますよ!)

表面皮膜のでき方の方向性

プラスチックは、圧延や押し出しや冷却時の温度勾配によって、分子の整列の仕方が変るので、方向によって性質が変わります。
特にPEシートはタテ、ヨコ、高さの三方向で引っ張り強度、熱膨張率がはっきり変わる他、溶接性もはっきり変わります。

溶接に関しては、コバの方向が特別に溶接が容易です。
ただし、一度加熱して冷却すると、温度勾配による分子の並び替えがおこり、A面と同じになります。(?)
(目で見えるわけではないので推定ですが、根拠はあります。)
内部からのブリードは、(もしあったとして)主としてA方向(冷却の熱勾配方向)だけであり(?)表面に沿って層状にできる(?)。
それがこの溶接性の差異を生む主因の一つになっている。(?)

皮膜の除去法

ホットガンで溶接をするなら、膜は、除去するのが基本です。ただし、サンダーやサンドペーパーによる除去は、どういう訳か結果が良くありません。カンナで削るのがベストでありいろいろな工具が市販されています。(下記写真参照)
【ソテック流裏技パート3】

皮膜は溶剤でも除去可能です。
(これが、先述の内部からのブリード説の根拠の一つです。)この方法もPAT申請していません。真似はご自由にどうぞ。・・が・・溶剤は自分で見つけてください・・お教えしません。

皮膜除去をしない溶接法

市販の溶接機は、表向き、膜の除去をしないのが普通ですが、実際は(結果的に)やっています。
例えば写真のMUNCHEの方式・・・
これはホットガンで高温に先行予熱した溶接部に溶接ノズルの先端を押し付け、溶融PEを高圧で吐出します。
その時、溶融PEを、母材にめり込ませて、練り混ぜるように操作するのがコツであり、この時、膜を物理的に突き破って、母材のPEと混練しているのです。
このコツをのみ込んで、そのように操作しないと、きちんと溶接できません。
(メーカーは高い金を取って、ドイツ国内で使い方をトレーニングし、能力検定してくださるそうですが、その前にカタログに、要点をきちんと書くべきでしょうに。)。
もっとも、知る限りにおいてどの溶接機メーカーも、PEの溶接メカニズムについて、詳しくは説明していません。
ユーザーのほとんど全ては、この膜についての予備知識が無いはずなのに、不親切の極み。と、ここで怒っていても仕方ないので、代わりに不肖ソテックが、プライベートコメントを付記しておきます。(ただし、内容については一切責任は取りません。)
MUNCHE以外の溶接機に関しては、写真とセットの説明を読んでください。
ところで、これら溶接機で実行されている方法だけが、膜破りのテクニックではありません。
他にもありますが事情があって、割愛します。

まとめ 、PE溶接の一番のポイントは、この膜に決定的な悪さをさせないようにすることです。PE溶接の最も大切なポイントです

いろいろな溶接方法と工具

1-1:ホットガンによる帯板溶接

適当な幅のPEやPPのシートを、ホットガンの熱風で、加熱しながら圧着していく。
赤外線加熱も考えられる。溶接棒を使っても良いが、PEの場合は、相当の技術がいる。
膜を除去しておくか、ピュアーな溶融PEが、加熱時に出現するようにしておくことが、大切。

1-2:シート溶接マシン

1-1と加熱の仕組みは同じであるが、加熱しながらギアで噛み込んでいく構造になっている。
ギアで、というのがミソ。 
これによって点、点、点と膜を破り、点、点、点と規則的に、オートマチックに、点付け溶接していく。

(写真:ライスター社カタログより)

2:エクストルーダー型溶接機

ドレーダーは、吐出ノズルの先の、高温になったエッジで母材を溶かし、(同時に、膜を破り)そこに溶融ポリエチレンを吐出して、融着させる仕組。
一方ムンシュは、母材をホットガンで予熱する。
だから 、それで出来る膜を、破るように操作するテクニックが要る。

上:ムンシュ
下:ドレイダー(コンプレッサーも必要)

3:光溶接

(株)クリスタルシステムのDr.進藤の造語?を勝手に拝借しました。・・
無着色と黒 2枚のPEシートを重ねておき、無着色側から強い光を当て、黒の表面温度を上げて融着させようという恐るべきアイデア。・・・(PAT出ているかどうかは不明。進藤博士に聞いてください。)
ただし、普通にやったら(進藤博士のように)失敗します。膜を除去しておくこと または、破れるように細工しておくこと 及び、隙間なく密着させておくことが絶対条件。
(中間に弊社のSKIP66を塗っておけば光接着が出来ます。当然、膜なんか取らなくてもOK・・・弊社で実験済)
赤外線による加熱は、波長に注意。PE分子の吸収帯に合ってしまうと、黒くない方が先に融けてしまう可能性あり。

光を使った超精密加熱や、単結晶製造システムのお問い合わせは、一流技術を持つ(株)クリスタルシステムにどうぞ](コケにしたお詫びに宣伝しときます。)
・・追記・・光加熱の効率は相当なものです。アッと言う間に融けます。正直ビックリ

4:超音波溶接

振動子で融着対象をはさみ、超音波振動を伝えると、接合面で摩擦熱 が発生し、融着する。厚物には効かない。
薄いものを手軽にくっつけるのに便利。
だから、代表として小道具タイプの写真にしました。
もちろん大型のリッパなのもあります。

(写真:スズキ(株)カタログより)

5:エレクトロフュージョン(EF)

電熱コンロの原理なのですが、ポリエチレン管の融着継手をEF継手という業界用語が、定着していますので、それに従いました。
ニクロム線に電気を流して、真っ赤に発熱させるアレです。線をPEに埋めて、端を外に出しておき、そこから電気を流し込んで、線の周囲のPEを融かして、融着させる方法です。(図:エコシステム社カタログより)

6:高周波誘導加熱(第二のエレクトロフュージョン)

PEと導電体を複合させておいて、発熱融着させるという点では、上記と同じですが、電源の周波数をメチャクチャに高くすると、上記のように端を出しておく必要は、無くなりなすし、電気抵抗の高い線を使う必要も、なくなります。電源のコイルを付近に近づけただけで、導電体は瞬時に発熱します。
感電の心配が無い通電離れたところからのピンポイント加熱、ハイパワー、瞬間性、等、いろいろな可能性のある方式。
これとSKIP66を組み合わせると、EF接着が出来ます。ただし、技術上の難点はイロイロあり。これからの技術
(図:YS電子工業(株))資料より )
三井建設㈱シールドトンネル工法の、ポリエチレン防水シートの熱融着システム

図の、メガヘルツクラスの高周波超小型高効率安定電源に関しては、YS電子さんは、世界最先端の技術を持っておられます。
表面処理機メーカーの方、その他興味がありましたら、お問い合わせ下さい。

7:バット溶接

発熱板の両側にPEを押し付けて、端部を融かしておき、板をサッと外し、すかさずサッとPE同士を押し付けて融着させる、スリの手口のような手法。
本物と同じく、熟練の技が要る。
これも、あらかじめ、膜を取り除いてから、行うほうが、確実性が増す。板の加熱は、いろいろな方式があり、またいろいろ、別の方式も考えられる。
(例えば、誘導加熱など)(図:ライスター社カタログより)

皮取カンナ

ライスター製

溶接棒

デュポン製

スキップラバー

(弊社製品)
ネオプレンゴム、PET不織布、SKIP55の薄い複合膜、これをPEの表面にアイロンやホットガンで貼り付ける。
ソテック製

参考までに

完全な溶接と不完全な溶接(表面膜の悪影響)

写真では見づらいですが
上:完全な溶接
下:不完全な溶接
左側:完全な溶接(PEを引きちぎっている)
右側:不完全な溶接(きれいに剥がれている)

融着の信頼性を上げるための、別のアプローチ

PEの性質を変えることによって、融着性(ヒートシール性というのが業界用語です。)を良くしようという試みが、主として素材メーカーさんによって、行われています。そのような素材は、我々の乏しい経験の中でも、いくつかありました。
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